みてぼんやりしてゐる
ぬるい昼の部屋は窓から明りをすすつて
私のかるい頭痛は静かに額に手をのせる
無題詩
夜になると訪ねてくるものがある
気づいて見ると
なるほど毎夜訪ねてくる変ん[#「ん」に「ママ」の注記]なものがある
それは ごく細い髪の毛か
さもなければ遠くの方で土を堀り[#「堀」に「ママ」注記]かへす指だ
さびしいのだ
さびしいから訪ねて来るのだ
訪ねて来てもそのまま消えてしまつて
いつも私の部屋にゐる私一人だ
四月の原に私は来てゐる
過去は首のない立像だ
或る年
ていねいに
恋は 青草ののびた土手に埋められた
それからは
毎年そこへ萠へ[#「へ」に「ママ」注記]出づる毒草があるのです
青い四月の空の下に
南風がそこの土手を通るときゆらゆらゆれながら
人を喰ふやうな形をして咲いてゐる花がそれなのです
馬
三十になれば――
そんなことを思ひつづけて暮らしてしまつた
一日
ずつと年下の弟にわけもなくうらぎられて
あとは 口ひとつきかずに白靴を赤く染めかへるのに半日もかかつて
何を考へるではなしいつしんに靴をみがいてゐたんだ
そして夜は雨降りだ
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