ゐるときは半月も、時には半年も酒を飲まずにゐることがある。今度も、そんなことなどで私は酒をのむ折が一層なかつた。やけ酒を飲んでゐるやうに見かけられるのも気がひけるし、子供を直接めんどうみてゐる間は十分つゝしまなければならないと思つたわけだつた。が、私は近頃になつて考へ直した。子供を動物園などにつれて行きたいと思ひながら、ソーダを飲みに入つたカフエなどで酒の相手をさせるやうなことがあるやうになつた。子供も女給さんと遊ぶのを面白がつて、為替が来ると一緒になつてうれしがつた。だが、カフエへ出かけるのも月初めと月末の二三日であとは金がなかつた。女児の小便を不便だとつくづく思つた。チリ紙のなくなるやうなこともあつた。
 子供のことを考へると眼のさきが暗くなる。顔を見てゐると可愛い。泣くこともある。こんなことを書いてゐると、母親がゐなくなつて一ヶ月ばかりは毎晩のやうに泣かれて、自分が女親になりたいと一心に念じたことを思ひ出す。子供のことを考へ出すと、十年も二十年も後のことを想像しなければならないからやめる。

×
 兎に角私は今元気でもなければへこたれてゐるのでもない。つまり私は何んでもなくつてゐ
前へ 次へ
全6ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
尾形 亀之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング