とは何も知つてゐない人だつた。それに不幸であつたためか何んとなく不愉快な感じがしてならなかつた。顔も普通の人とはちがつてゐるやうな気さへするのだつた。その後に老婆が来たが、一切魚類も牛や※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]の肉類も食べない人であつた。みそ汁が辛かつた。飯の度に憂鬱になつてしまつたので半月で帰つてもらつた。
私は台所と洗濯と掃除と子供のことなどで一日中ひまのない男のママさんになつた。七間もある家に子供と二人でゐるので近所を不思議がらせた。子供を幼稚園にやつてみたが送り向ひ[#「ひ」に「ママ」の注記]が出来ないのでやめてしまつた。
そんなことをして十月になつた。高橋新吉詩集の会のあつた晩、その頃上京してゐた母を送つて郷里へ帰つた。そしてすぐ上京するつもりであつたのが、子供が赤痢になつたので十一月過ぎても上京せずにゐる。もうこゝは寒い。親父に新調してもらつた外套の出来上るのを待つてゐる。子供もやつともとの体になつた。
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妻と別れた経験は生れて初めてゞあつた。
噂やなにかでは私を酒のみといふものにしてゐるけれども一人飲むやうなことはほとんどない。だから一人で
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