忘れてゐた。そして、私は二時間も縁側に干した蒲団の上にそのまゝ寝そべつてゐたのだ。
私が寝そべつてゐる間に隣家に四人も人が訪づ[#「づ」に「ママ」の注記]ねて来た。何か土産物をもらつて礼を言ふのも聞えた。私は空の高さが立樹や家屋とはくらべものにならないのを知つてゐたのに、風の大部分が何もない空を吹き過ぎるのを見て何かひどく驚いたやうであつた。
雀がたいへん得意になつて鳴いてゐる。どこかで遠くの方で※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]も鳴いてゐる。誰がきめたのか、二月は二十八日きりなのを思ひ出してお[#「お」に「ママ」の注記]可笑しくなつた。
へんな季節
次の日は雨。その次の日は雪。その次の日右の眼ぶたにものもらひが出来た。
午後、部屋の中で銭が紛失した、そして、雨まじりの雪になつて二月の晦日が暮れた。
少しでも払ら[#「ら」に「ママ」の注記]はふ[#「ふ」に「ママ」の注記]と思つてゐた肉屋と酒屋はへんに黙つて帰つて行つた。
私は坐つてゐれないのでしばらく立つてゐた。ないものはないのであつた。盗つたことも失くなつたことも、つまりは時間的なことでしかないやうだ。
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