家
私は菊を一株買つて庭へ植ゑた
人が来て
「つまらない……」と言ひさうなので
いそいで植ゑた
今日もしみじみ十一月が晴れてゐる
白に就て
松林の中には魚の骨が落ちてゐる
(私はそれを三度も見たことがある)
白(仮題)
あまり夜が更けると
私は電燈を消しそびれてしまふ
そして 机の上の水仙を見てゐることがある
雨日
午後になると毎日のやうに雨が降る
今日の昼もずい[#「い」に「ママ」の注記]ぶんながかつた
なんといふこともなく泣きたくさへなつてゐた
夕暮
雨の降る中にいくつも花火があがる
暮春
昼
私は路に添つた畑のすみにわづかばかり仕切られて葱の花の咲いてゐるのを見てゐた
花に蝶がとまると少女のやうになるのであつた
夕暮
まもなく落ちてしまふ月を見た
丘のすそを燈をつけたばかりの電車が通つてゐた
秋日
一日の終りに暗い夜が来る
私達は部屋に燈をともして
夜食をたべる
煙草に火をつける
私達は昼ほど快活ではなくなつてゐる
煙草に火をつけて暗い庭先を見てゐるのである
初冬の日
窓ガラスを透して空が光る
何処からか風の吹く日である
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