昼の時計は明るい


夜 疲れてゐる晩春

啼いてゐる蛙に辞書のやうな重い本をのせや[#「や」に「ママ」の注記]う
遅い月の出には墨を塗つてしまふ[#「ふ」に「ママ」の注記]

そして
一晩中電灯をつけておかう


かなしめる五月

たんぽぽの夢に見とれてゐる

兵隊がラツパを吹いて通つた
兵隊もラツパもたんぽぽの花になつた


床に顔をふせて眼をつむれば
いたづらに体が大きい


無聊な春

鶏が鳴いて昼になる

梅の実の青い昼である
何処からとなくうす陽がもれてゐる

×

食ひたりて私は昼飯の卓を離れた


日一日とはなんであるのか

どんなにうまく一日を暮し終へても
夜明けまで起きてゐても
パンと牛乳の朝飯で又一日やり通してゐる

彗星が出るといふので原まで出て行つてゐたら
「皆んなが空を見てゐるが何も落ちて来ない」と暗闇の中で言つてゐる男がゐた
その男と私と二人しか原にはゐなかつた
その男が帰つた後すぐ私も家へ入つた


郊外住居

街へ出て遅くなつた
帰り路 肉屋が万国旗をつるして路いつぱいに電灯をつけたまゝ
ひつそり寝静まつてゐた

私はその前を通つて全身を照らされた

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