昼の時計は明るい
夜 疲れてゐる晩春
啼いてゐる蛙に辞書のやうな重い本をのせや[#「や」に「ママ」の注記]う
遅い月の出には墨を塗つてしまふ[#「ふ」に「ママ」の注記]
そして
一晩中電灯をつけておかう
かなしめる五月
たんぽぽの夢に見とれてゐる
兵隊がラツパを吹いて通つた
兵隊もラツパもたんぽぽの花になつた
昼
床に顔をふせて眼をつむれば
いたづらに体が大きい
無聊な春
鶏が鳴いて昼になる
梅の実の青い昼である
何処からとなくうす陽がもれてゐる
×
食ひたりて私は昼飯の卓を離れた
日一日とはなんであるのか
どんなにうまく一日を暮し終へても
夜明けまで起きてゐても
パンと牛乳の朝飯で又一日やり通してゐる
彗星が出るといふので原まで出て行つてゐたら
「皆んなが空を見てゐるが何も落ちて来ない」と暗闇の中で言つてゐる男がゐた
その男と私と二人しか原にはゐなかつた
その男が帰つた後すぐ私も家へ入つた
郊外住居
街へ出て遅くなつた
帰り路 肉屋が万国旗をつるして路いつぱいに電灯をつけたまゝ
ひつそり寝静まつてゐた
私はその前を通つて全身を照らされた
前へ
次へ
全9ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾形 亀之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング