雨になる朝
尾形亀之助

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)冷め[#「め」に「ママ」の注記]たい手で
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この集を過ぎ去りし頃の人々へおくる


序  二月・冬日

二月

 子供が泣いてゐると思つたのが、眼がさめると鶏の声なのであつた。
 とうに朝は過ぎて、しんとした太陽が青い空に出てゐた。少しばかりの風に檜葉がゆれてゐた。大きな猫が屋根のひさしを通つて行つた。
 二度目に猫が通るとき私は寝ころんでゐた。
 空気銃を持つた大人が垣のそとへ来て雀をうつたがあたらなかつた。
 穴のあいた靴下をはいて、旗をもつて子供が外から帰つて来た。そして、部屋の中が暗いので私の顔を冷め[#「め」に「ママ」の注記]たい手でなでた。

冬日

 久しぶりで髪をつんだ。昼の空は晴れて青かつた。
 炭屋が炭をもつて来た。雀が鳴いてゐた。便通がありさうになつた。
 暗くなりかけて電灯が何処からか部屋に来てついた。
 宵の中からさかんに鶏が啼いてゐる。足が冷め[#「め」に「ママ」の注記]たい。風は夜になつて消えてしまつた、箪笥の上に置時計がのつて
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