。見るからに節太い大きな手は過去の働きつづけた生活を語って見せた。
老婆はじっとしてゐる事が苦痛なたち[#「たち」に丸傍点]だった。お針を習ふ折がなくて過ぎたが糸取りには自信があった。作場仕事も好きだった。若い者に交ってどんどん働いた。大家族でいつも忙しい家だった。老婆は憎まれ口もよく利いたが快活で話し好きだった。
『町育ちのひとのやうでもない、下品な話ばかりして!』と眉をひそめられることもあった。
『おばあさまのお菜洗ひは砂が一寸も落ちんでほんとにいやだ……』
若い孫嫁の繁子は何彼につれて老婆を煙たがった。老婆は老婆で若い者達のにぶい仕事振りが気に入らなかった。
『奉公人使っとる家のお上さんなんちふものは起きて出るにも咳払ひしながら起きる位の気転が利かなくては……』と一寸云ふにもそんな調子だった。それ程萬事に気喧しい性分だった。老婆は腹が立ってムシャクシャすると尚更ぐいぐい働いて見せた。
『吉田でも全くいい年寄を貰ひ当てた!』
近処の者はよくさう噂した。
隠居は間もなく卒中でバッタリと死んで行った。今更何の問題もなく老婆はその儘隠居所に居付いた。かめよも先の姑に仕へた時と違っ
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