金田千鶴

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)厭《あ》きられ

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)下|撚《より》を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)みより[#「みより」に丸傍点]
−−

『年寄には珍らしい』と、老婆の大食が笑ひ話に、母屋の方の人達の間で口にのぼるやうになった頃は最早老婆もこの家の人達に厭《あ》きられはじめてゐた。つまりそれ丈役立たぬ体となったのである。その事は老婆自身も無意識のうちに感じてゐて何彼につけて肩身狭さうにした。時折米を持ちに行く穀倉の戸を気兼さうにあけた。『容れ物そこへ置いてお出でな、後で持って行ってあげるで……』孫嫁に当る繁子がさう云って倉の中の仕事をしてゐる所へ行ったりすると、『そりゃまあおかたじけな!』と云って老婆は邪魔にならぬやうに、米櫃代用のブリキ罐を其処へ置いて出て来るのだった。それがひどく手持無沙汰の恰好に見えた。薪や粗朶《もや》を納屋から運び込むにも何かしら人目を憚かるやうにこそこそ運んだ。
 老婆は火を焚くことが好きだった。
 体が今程不自由でなかった頃は、裏の
次へ
全22ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
金田 千鶴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング