山へ出掛けて枯木を拾ったり、松葉を掻いたりして来るのを仕事にしてゐた。抱へ切れぬのはズルズルひきずって持って来た。
 今ではもうその元気はなかった。薪にしても粗朶にしても納屋から運んで来るのは気兼だった。然し老婆は焚きものが切れると何よりも心細くて堪らなかった。隠居所の土間に焚きものを絶やさぬやうにして置きたかった。
 それで隙さへあれば少しづつでも運び込んだ。そして炉端に坐ってどんどん大きな火を焚いた。小さな鉄瓶一つ掛けた丈で大きな火を焚き放題にするので、隠居所の中はどこもかも真黒に煤び切って、天井からは白い焚埃りが降るほど舞ひ落ちて来る中にいつ迄も坐り込んでゐるのが常だった。それで時々焚き放しにしておいて外へ出て行く癖だった。
『なんたら大きい火を焚いて!』
 通りがかりの主婦のかめよは驚いて隠居所を覗いた。『どうしてこんなに火を焚きたいらか?』かめよは独り言を云って、二三本のまきを灰にこすりつけて火をとめた。
 老婆の火を焚く癖も近頃は殆んど病的に募って行くやうだった。
『おばあさま、お茶がよう煮えとる!』
 かめよは老婆が抱へるやうにして入って来た大きな榾に素早く目をとめた。

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