のままにして置く気にもなった。なにも彼も悲しく呪はしくなった。そして今迄にもこんな思ひに度々出逢ったやうな気がして来た。
大家内の母屋では子供に紛れてつい忘れてゐた。
かめよも老婆の為にはいつも特別気を配ってゐるのだが今夜に限って何か紛れてゐて遂それなりになった。もう後片付も済まして皆奥へ引込んだ時だった。かめよがふと『おばあさまには上げつらなァ?』と云ったので気がついて(しまった事をした)といふので繁子は大急ぎでお萩の鉢を運んで来た。
『えらい遅くなって申訳なかったなむ』繁子は戸間口からさう声を掛けて入ったが老婆は炬燵の中に体を埋めるやうにしてゐた。『ナァに』と口軽く云ふつもりで声が震へさうで何も云へなかった。
繁子は困った顔をし乍ら出て行った。
すぐ後からわざわざかめよがやって来た。
鉢はまだ上り端に置かれてあった。
『おばあさま、えらいわるいことをしたなむ、サア早く食べておくんな!』
『ナァに』老婆はよわよわしく微笑をしようとした。
『本家の方もゴタゴタしてをるでつい忘れてしまって……そいだがおばあさまも催促に来てお呉れりゃいいぢゃないかな? なんにもわる気のあることぢ
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