のも、そそいで呉れるものもない寂寥を只身一つに背負ってゐるやうに隠居所の炉端にひとりぼんやり坐ってゐる時が多かった。
 そして思ふやうに動けぬ自分の体を自分で持て余すやうな焦燥もいつか年と共に消えて了ってゐた。
 若い時から人一倍壮健で、たくましい胃を持ってゐる老婆は食慾だけは年取ってもさかんだった。只食べて眠る丈の慰安がそこにあった。そしてひとりで煮炊をしてゐるとその方がずっと気楽でたまに『本家で食べておいでな』と云はれても母屋では落付いて食べる気にならないので、いつも断って帰って来た。
 ある晩だった。今夜は御馳走が出来るから食べずに待つやうにと云はれたので、老婆は夕方から待ち切った。炉端につくねんと坐って火を焚き乍ら足音の聞える度に耳を澄ました。
 随分待ったが何の沙汰もない。待ちあぐんで炬燵に戻って待って見た。それでも持って来る気配がない。老婆は次第に空腹が増すに連れてヂリヂリして来た。
 忘れてゐるのだらうか? さう思ふとなんとも云へぬ忌々しい気持になった。
 行って見ようか? さう思ふ一方で、構ふことはない、棄てておいてやれといふいっそ自棄的な気持ちが湧いてみじめな自分をそ
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