て独り言に洩らすのだった。
孫娘のみつ子も疾《と》うに町の方へ嫁に行ってゐた。みつ子の嫁入の時は、『おばあさまのお蔭でこんなに着物が沢山出来た!』と手取りの絹を胴裏にまでつけた着物を見せられて悦ばれたものだったが、老婆も次第に手が硬くなって好きな糸取りも出来なくなった。
老婆は引き続いて生れる曽孫の子守を次々に引受けた。子供が重くなって手に余る頃には又次の赤ん坊が生れてゐた。
老婆の心では出来る丈働くつもりでももう思ふ様に体が動かなかったし、ためになるつもりでやる事が却って反対の結果を生んだ。
蚕の手伝ひは最も好きな仕事で、『おばあさま繭掻きとなるとまるで夢中で御飯食べる事も忘れて了ふ……』とよくかめよが笑ったりしたものだが、今ではもう『巣掻かん蚕迄拾ふ』とか『上繭も中繭も区別が出来ん』とか、蔭では苦情許り云はれて有難迷惑にされるやうになった。
老婆はある時末の男の子を背負ったまま、近くの溝川へ落ち込んで、子供も自分も頭を血だらけにして帰って来た。
左半分が兎角不自由勝ちだった。
その時以来子守仕事も老婆の役目ではなくなった。その上老婆の頭の傷ははかばかしく癒らなかった。
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