単純な化膿ではないといふ事だった。身にひそんでゐた病気が有るのだった。老婆は目に見えて衰へが来てゐた。
『勝野さん、俺れもこんな者になって了って全く悲しいよ!』
老婆は利かなくなった左の手を出して見せた。
『ふんとに手は利かんし足は利かんし俺れも生き過ぎてしまったよ!』
勝野老人はあたり前だといふ顔をした。
『おまいはなんにも云ふことはないよ……楽隠居でなんに不足がある。有難く思ってさへ居ればそれでいいんだな!』
さういふ勝野老人はひどく屈託を持ってゐる顔付きだった。
『もうあかん、荷が苦になるやうになったらもうあかん……』
勝野老人は吉田迄来ると思はず溜息をついて云った。老人もめっきり年取ってどこか影のうすいやうなとぼとぼした歩きつきだった。
『勝野さんもなんだかながいことはないやうだ……』
かめよは夫にさう云って、次の間に寝てゐる老人の不規則な寝息を聴いた。
『うん、老爺も養子にゃ逃げられるし、それに第一商売がもう行きどまりだでえらからうよ!』
かめよ夫婦は暫くそんな話をしてゐた。
勝野老人の身辺にも目に見えて変遷が有った。老人があれ程信頼してゐた養子にも裏切られた
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