てゐるのだが、暮しは苦しくなる一方だった。
考へて見ると身上を拵へる、拵へないと云ふ事もはじめは一寸したはづみから出発するやうなものだ。ここで遊んでゐて食へる者はない。それは丁度絶えず廻転してゐなければならない車輪である。年柄年中|間断《ひっきり》なしに仕事を追ひ掛け片付けてそれでやっとどうやら廻って行く事が出来る。今日これきりできりになったといふ事はない。――松下や吉本屋ではうまくはづみがついて休みなく廻りはじめたと云ふものだ。――
それが一寸躓づけば(そんなはづみはふんだん[#「ふんだん」に丸傍点]にある)もう直ぐ抜き差ならぬ泥沼へ落ち込む仕掛に出来てゐる。一人病人が出来一度蚕に失敗すればもう直ぐ借金になる。余分な稼ぎに出て居ればそれ丈廻転が渋滞する。
さうなると因果関係で、人の三倍四倍働いても泥沼から足を抜く所か一歩一歩と深みに引きずり込まれて行く――他人とのひらきがだんだん大きくなって行く――そしてもう一度上手に廻り直すと云ふ事は昨日を今日に直す事よりも不可能になって来る。かうなると借金は雪達磨の様に転がして大きくして行くばかりである。途方に暮れて惘然《ぼんやり》して居れ
前へ
次へ
全58ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
金田 千鶴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング