中屋も息子がトタン屋になってから大分廻しがつくやうになった。昨年あたりから村内でも稚蚕飼育に手間のかからぬトタン箱飼育が流行ってゐたからトタン屋商売は大当りだ。
「佐賀屋も楽になったと云ふもんだ!」ふいに新蔵は云った。
「楽どこか、俺ァまりは……」勝太は頭を振った。
「賄を拡げちまってどうにも借金だらけだ!」
「今日日《けふび》借金のねえやうな者は無いが、お前のとこは息子も娘も実直でよう精出すでなあ!」
新蔵は羨ましがる口ぶりで又云った。
酒を飲まぬ宇平は先刻から黙り込んでゐたがむっつりと重い口で、
「俺ァまりぢゃ米はいくらも取らん、飼ふ口は大勢だ、小作料は米で納めんならん、それでお蚕はしじふ腐らすと来とる! 法はねえ!」
投げ出すやうに云った。
宇平の所は近年災難続きで娘が製糸工場から病んで来て肺病で死ぬ、女房は中風で動けなくなる。何かの祟りだかも知れぬと弘法様に拝んで見て貰ったら屋敷が悪いと云ふので移転をしてその時奉公に行ってゐる[#「行ってゐる」は底本では「云ってゐる」]二番息子が右腕の骨を折るといふ工合で、それに孫が大勢なので、息子夫婦と三人で気違ひのやうになって働い
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