夏蚕時
金田千鶴

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)厭《や》アだな!

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一巣|発見《みつけ》たぞ!

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)しん[#「しん」に丸傍点]として
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          一
 午過ぎてから梅雨雲が切れて薄い陽が照りはじめた。雨上りの泥濘道を学校帰りの子供達が群れて来た。森田部落の子供達だ。
 山の角を一つ廻ると、ゴトゴト鳴いてゐた蛙の声がばったり熄んだ。一人の子がいきなり裾をからげて田の中へ入った。そしてヂャブヂャブさせ乍ら蛙を追ひ廻した。
「厭《や》アだな! 秀さはまた着物汚してお父《とう》まに怒られるで……。」
 後から来た女の子達のひとりが叫んだ。
「要《い》らんこと吐《こ》くな!」
 秀は捉へて来た蛙を掴んで挑んで行ったが、不図思ひ出したやうに、
「久衛、今日はこいつで蜂の巣探さんか」と云った。
「うん、へいご蜂をな!」
「俺らほの兄いまがこないだ一巣|発見《みつけ》たぞ!」
 男の子達は口々に叫んだ。秀は蛙の足を握って忽ちクルリッと皮を剥いた。
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