そして棒の先へ串刺に刺した。蛙の肉へ真綿をつけて、その肉をくわへた蜂の行衛を何処迄も追ひ掛けて行く――そして巣を突きとめる、それは楽しい遊びの一つである。
何思ったのか不意に秀は頓狂な声を出した。
「ヤイ、蜂の子飯ァ旨《うめ》いぞ!」と叫んだ。
「美知ちゃん!」女の子の一人が云った。
「わし、昨日晩方通った時|御夕飯《おゆふはん》食べとっつらな!」
「何んで?」
「何んでもな! お夕飯をあんね明るい時分に食べるんだなあ!」
美知子は去年赴任して来た村医の娘である。
水溜りにくると子供達はバシャバシャ泥を飛ばして歩いた。
「美知ちゃん! 長靴は歩きいいら?」
一人が聞いた。美知子は頷いて見せた。
「真佐子ちゃんも長靴ある?」
「ウム、だけどもっと小さいの……」
美知子は云った。するともう一人が云った。
「わしァ今度お母まが製糸から帰る時買って来て呉れるったの!」
「お母まいつ来る?」
「今度の公休日!」
「芳江さはいつかもさう云っとったぢゃないかな? 一寸も買って来りゃせん……。」
堀割を大きく廻ると、左の谷間から運送が一台車輪一杯の狭い道をガタンゴトンと躍り乍ら下って来た。
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