を耕して食ひ凌いで来た者はほんの三四軒の家だけだった。
 松下でも森田家が潰れた時、洞上田地を安く手に入れたのが運が好かったと話が出た。
 吉本屋も小金を要領よく利殖してめっきり大きくなってきた。金も一旦溜り出すと苦もなく働けてまた溜る。
「あそこでも今ぢゃ家内《うち》ぢうで米はとても食ひおほせんらよ?」
 勝太は口を挟んだが、
「あそこなんにも無しっちふやァふんと茶碗一つも無しとからはじめた身上だで!」
 さう感慨深さうに云った。此処でなんにもなしの境涯から田地の一枚も手に入れようと発心すればどれ程の働きをせねばならぬか――親に背いて夫婦になって飛び出してから、吉本屋も人の三倍四倍は事実働き抜いて来たのだ。――田の畦にどの子も寝かされて育って来たのだ。
「月給の入る衆は不景気知らずだ!。吉本屋も息子が取るで楽になる一方さ!」新蔵は一寸言葉を切ったが「だが人間もちィっと身上が出来ると強《きつ》くなるで怖っかねえ……」
 さう含んだもののある調子で云った。
「うん、あそこら今ぢゃ巾利だでな!」
 留古は大きく頷づいて見せた。
「中屋の後家も一時から見ると大分調子がいいやうぢゃねえか?」

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