ば尚増える借金だ。
「そいだがかうなりゃ借りた者の方が強いぜ!」
「何んちゅったって返せんものは返せんと度胸を据ゑ込んで了ふでなあ……ハハハハ……」
留吉は酔の廻った眼を据ゑる様にして云った。
「本当《ふんと》だなあハハハハ……」
皆相槌を打って笑ったが勝太は一寸硬ばった顔をした。(俺らとは働き様が違ふぢゃないか!)と云ふ腹があるのだった。
「これでお蚕に追はれとるうちゃァ何んと云ってもいいが……」宇平は心細さうにぼそりと云った。
その不安は誰の胸にもあった。
冬の稼ぎは主として炭焼である。炭を焼くと云っても山を持たぬから立木を一山いくらで買って始めねばならぬ、それに近頃は規則が喧しくなって、俵にする萱からして買ひ入れねばならぬ。一日二俵焼と見て、それで上炭五貫匁俵この春の相場で四十銭である。
女や子供は炭俵の駄賃負ひをする。峠を越えて隣村迄持って行き、帰途には米を買って背負ってくるのが普通である。
女でも合田のおときなぞは力持ちだから、体の弱い亭主に二俵背負はせ、自分は三俵背負ってさっさと登る。そして峠へ先に登り詰め荷を下しもう一度引き返して来て亭主の荷を頂上迄背負ひ上げ
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