……」
 二人の子供は叫び乍ら縺れるやうにして、街道の方へ駆けて行った。
 昔はこの部落でも残らず仏式だったが、禰宜様の方が手軽で金が掛からぬので、今は大抵の家で神葬祭になった。
 それでも古くからの習慣で、盆になると墓地に秋草の花を供へ、新盆の家では夜になるのを待って墓地の周囲に灯を点けて祭った。子供は盆がくるのを待ちきった。「盆がすんだら何待ちる……」さう果敢なく楽しんで製糸工場から帰ってくる少女達は唄った。
 源吉はひと休みして、傍らの朽ちた木株に腰を下した。煙管を出して一服吸ひつけたがふと気が付いたやうに、
「今年は新盆が三つあるかなあ?」と云った。
「こちらと新屋の娘と中屋の老爺と……、窪の由松さは春だったで去年済んだな!」
「開土の子も今年ぢゃなかったかしら?」
「ほんにあそこの坊もさうだったかしらん……そいぢゃ今年は四つもある。こんな年も滅多ねえな。みんな泣き葬ひばっかりで――。まあ中屋のおぢいは年が年だで順当だが……。そいぢゃ今年は方々の灯が見えるなあ!」源吉は煙管を腰にはさみ乍ら立ち上って、道具をかた付けはじめたが、「此処は場所が高いでどこの灯より派手て見えることずら
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