だった。
 隣部落から頼んだ禰宜様が、汚れた白足袋を穿いたままで、通り一遍の祝詞《のりと》をあげたきり、なにしろ北風の寒い日で吹きさらしの墓場にはゐられないので、お義理に集った部落の者達もそこそこに引き揚げて了ったのだった。
 源吉は志津を相手にして、土を連びだしたり盛土を盛り直して屋根をつくろったりした。学校から帰って来た久衛と秀とが墓場に上って来てから急に賑かになった。源吉は自分の藪から伐って来た青竹で作った竹筒を一本づつ墓の横へ立てた。
「なんでたかつっぽ立てるの?」秀は父親に聞いた。
「花を立てて進ぜるんだ。仏さまにな」
「お父っさまに灯をつけて進ぜるんだに」
 志津は久衛に云った。
「灯を進ぜるってどうやるんな?」
「いつか新ちゃんとこでしたやうにかな? 蝋燭をうんとつけて……」二人の子供は同時に聞いた。
「うん、八百燈をな」
「どこへ灯をつけるんな?」
「ここのまはりから街道の方へつけて行くやうにするだな」
 源吉は志津に計るやうに云った。
 うるさく問ひ質した秀と久衛はその時思はず顔を見合せた。
「やア!」といかにも悦ばしさうな声を上げた。
「やア、灯をつけるんだってよォ
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