の墓地には、裏手の山からおびただしく土砂が押し出して来て、そこら中目もあてられぬ程の荒れ様だった。水溜りがいっぱい出来て、おまけに利国の墓には盛土の横腹にドカンとした大穴があいた。そこから水が流れ込んだと見え、屋根は引っくり返り墓標がガサリと落ち込んで了った。
 その朝早く、朝草刈に近道を抜けて来た、おときが見付けて「おお、怖っかねえ!」と魂消た声をだした。そして小さい男の児を急《せ》き立てて、「さァ、さっさと歩かんと利国さのお化が出てくるぞ!」とおどかした。
 おときは坂の上から志津を呼んでそのことを話して行った。
 翌日になって志津は隣の源吉を頼んで墓地の掃除をはじめた。先祖代々の物々しい墓石が列を作って幾列もならんでゐる。広い地所丈に荒れ切って落莫としたものだった。
 一番前列に、善次郎、お安、おたけ、紋治、そして利国のがならんでゐる。石碑が立たぬのでどれも形許りの土饅頭で、墓標の文字が辛うじて読めた。
「おばあさまのが一番しっかり出来とる」
 源吉はさう云った。まだ何んと云っても、お安の死んだ頃には、森田家にも残りの光があったのだ。それが最後の利国の場合には、まるで形許りのもの
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