頼んでやってもいくらか浮く勘定だった。それにはおときに頼んで、おときの家の名義を借りて出すのが得策だった。
志津はそのことを話して見た。
「それが?」おときは顔を歪めるやうにして云った。
「なんしょわしら方ぢゃ生産に借金が有って、春蚕だって無理に借りて来とるやうなわけで今度の夏蚕も飼って見る丈でくる分は更にない……もらふどこぢゃない。こちらからよっぽどお足《た》しが行かにあ勘定にならん……受判頼んで先へ先へ借りてくるもんで、順に困るばっかりな!」
おときは深い溜息をついた。おときの家では、蚕も大取りだしそれに娘が二人も生産の工女になってよく稼ぐので楽にならねば嘘なのだが――。
「ふんと働き足りんのだかなんだか困る困るっていふより他の事は云ったことがない……お盆が来るに着物がねえって、清子ら悲しがるで、わしもやる瀬がねえがどう思っても仕ようないもの!」
おときはさう云って寂しくわらった。
九
降りつづいてゐた雨が夕方から激しく風を呼んで暴風雨となったが夜明となってやうやくをさまった。野分が過ぎて山の上の部落はにはかに冷々と秋らしくなった。
昨夜の大雨で森田家
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