た。今度はいきなり障子へ足を突込んでベリベリと破った。そして傍に這っているみさ子の体を蹴飛ばした。「わあっ――」とみさ子は泣きだした。志津は飛んで来た。そしていきなりピシャリと清作の頭を殴った。志津の眼には口惜しい涙がにじみ出た。
「飼っちまったら遣るって云っても? 解らん児だ!」
 志津は戸棚から一銭出して「さァ――」と云って渡した。清作は機嫌が直って、涙を拭いたが、銭を握って外へ出た。「清ッ!」志津は家の中から呼んだ。
「早く行って買って来て、お母あゃんはせはしいんだでみいちゃんの守をしとくんなよ!」
「ウーん」と長く引張って答へて、清作は坂の下の方へ駆けて行った。
 志津はふとした時に、死んだ利国の事が憶ひ出された。末だどこからかひょっと帰って来る様な気がする時があった。或る晩利国は泥酔して帰って来て門先の溝川へ転げ落ちた。そして起き上る力がなくなって「う、う」と唸るばかりだった。
「お父っさま、お父っさま!」
 志津は涙をボロボロこぼし乍ら取り縋った。
 利国は月が経って漸く半身丈動かせる様になったが、口が充分利けず、涎が流れる様になって見る影もなくなって了った。
 利国はやっ
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