と杖にすがり乍ら、川向うの生家へ始終のやうに米や金の無心に出掛けて行った。
「利に来られると身がちぢむやうだ!」
 向うの母親はさう云って歎いた。
 それでも親の情で、帰って来て袋をあけると、五十銭銀貨の二つや三つ包んだ紙包みが、米にまじって出て来たことも一度や二度ではなかった。
「お父っさまお米持って来た?」
 久衛と清作は心配さうに、内証でお互ひにそのことをささやき合った。
 人には話すこともできぬやうな悲惨な思ひの日が二年も三年も続けられて来た。
 志津は時折利国に相手になってもらって、あぶなっかしい足どりで畑へ肥桶を担いで行ったことを思ひだした。それは散々道楽しつづけて、いつもお互ひに冷たい眼をしあってゐたもとの夫とは別人のやうだった。
 さういふ夫に対してはじめて、落付いた夫婦らしい情愛を持つ事が出来たやうだった。
 志津は何も彼も勝手に押しつけておいて先に死んで行った利国が怨めしくて仕方なかった。
 絶えず絶えず押し寄せてくる生活の不安をとてもひとりで払ひ切れぬ気がした。

 上簇《おやとひ》の日には、志津はおときを頼んだ。
 おときの所では一昨日《おととひ》上簇が済んで、
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