した無産新聞を、公休日に帰ると熱心に読みふけってゐた。若い娘達の近頃の進歩と変化にはおどろくものがあった。
昇三は何彼につけて、自分らが立ち遅れた者である事を感じさせられた。「なんとかしなければならない」焦燥にいつも駆られた。そして直接ぶっつかって行くべき何物をも掴む事の出来ぬ立場が歯がゆく物足りなかった。
「昇三、うちでも早く嫁をもらはにゃならん…。千穂らもいつ迄もああやっちゃ置けんし、手が足りんでなんとかせにゃあ……」
母親のおすみはそんな風に切りだした。
「こんな貧乏の中へもらっても仕様ない……。俺ァ三十になるまぢぁもらはんぜ!」
昇三は素っ気なく答へた。
「三十になるまでもらはんわけにも行かんが?」
勝太はポッツリと口を挟んだ。
昇三達の間では娘の噂もしてゐられぬといふ風だった。
八
八月になってから急に蒸々と気温が昇って、雨気づいた日が続いた。何処の家の蚕にも白彊病《かつご》が出始めた。拾っても拾っても後から後から白くなって死んで行った。ひどいところでは一晩のうちにぞっくりと白く硬化した。役場で配った薬を蚕の上に振りかけて消毒して見ても、なんの
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