ぞ!」
「県会に野心があるのさ!」
佐賀屋の息子の昇三を中心とする青年達の集りではさうした話題がのぼる事もあった。
一度持ち山の検分に家族連れでやって来て、二三日吉野屋に滞在して行った福本の小兵ないかにも精悍な顔付をみんなは思ひ浮べた。
東京の学校へ行ってゐるといふ福本の娘の華奢な恰好も目についてゐた。
「千円借して四百円天|刎《ば》ねて……判こ押してさへ居りゃ懐手で身上がふえて行くばかりだなんて、人を馬鹿にしとるなあ」
昇三は考え込むやうにして、
「ん、それよか第一福本は町の人間じゃないか? それが六里も離れたこんな山の中の、なんの由縁《ゆかり》もない土地を、お嬶っさまや息子を連れて来て、これが俺らほの山だ、これが俺ら方の土地だって、あたりめえの顔で見て廻って……法律上の事を云ふんぢゃない……。此処の者は先祖の代から此処に住んどったって薪一本からして銭出しとるんぢゃないか。山持っとる者はどんどん植林してその上、県からどっさり補助金が出るっちふことだ……。そこの矛盾を考へるべしと思ふな!」
一語一語熱をこめて云った。
「ん、山持たん者ぢゃ話にならんな。農会あたりぢゃ副業に椎茸
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