ちはじめ、雑木山には夥しい漆の若木が茂って来た。
そして其処には既に二三尺の或は五六尺の檜苗が生々しく育ってゐるのだった。これは伐り跡に直ちに町の福本が植ゑさせたのである。
「これが育つと大したものになるぞ!」
部落の者は山を見て通る時、檜の見事な育ちぶりにおどろいた。
福本は隣の同じ岡島部落の方の山林も岡島家の倒れた時手に入れて所有してゐたから、山続きに何百町歩の檜山杉山が、棄て置いても一年一年その価値を高めて行く訳だった。
「あれで岡島区へ中電の発電所が出来て、鉄道が通ったりするとなると、福本の山はどえらい値が出ることになるな!」
「馬鹿だな貴公は! はじめっからそのつもりだったんぢゃないか。ここらの小狡い奴らが束になってかかったって、福本にかなふもんか。沢渡山だって地続きに欲しかったから手に入れたんぢゃないか……。森田の利国さだって最初っから蛇に見込まれた蛙さ……なんだかだ云って搾りとられてしまったんだ!」
「やイやイおだてられてちィっと芸者揚げてさわいで見た位のもんだな!」
「そいでも福本もこの頃は大分神妙になって、方々へ寄附したりして、前ほど悪く云はれんやうになったちふ
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