摘み取ったのを、尾籠の中へ押し込んだ。
 夕闇が静かに追って来て涼しい風がザワザワと桑畑をゆすぶった。
 山には漆の花が咲いて散った。
 森田部落は高い山の上の盆地で他部落へ行くにはどっちへ行くにも坂を降りるか登るかしなければならない。大体岡田村全体が谷間谷間に一部落づつ形成してゐる地勢で他部落との交渉が割に薄かった。大抵のことは部落内でまとめる事が多かった。
 森田家の没落と共に、森田部落の周囲を幾重にも取り捲いてゐた森林が丸坊主に伐り払はれた。
 それは如何にも瞬く間だった。杣が大勢入り込んで杉や檜や松の大木を片端から倒して行った。皮を剥かれた丸太の材木は毎日山を下り、運送に積まれて町の方へ運び去られた。
 跡には赭茶《あかちゃ》けた山の地肌が醜く曝け出され、岩石と切木株がゴツゴツと露はれてとげとげしい感じを与へた。落葉がいくらとなしに積って腐蝕した山の地面は歩むとへんにボコボコとした軟らかい足|触《さは》りがした。そして役にも立たぬ馬酔木《あしび》や躑躅《つつじ》がしょんぼり残された山一杯に木屑《こっぱ》が穢なく散乱した。その木屑を大抵の者が密っと自分の家へ運んだ。家の裏手へ積み
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