で、紋の付いた羽織ぐらい着て来てもよからずに……」
 さう云って志津の隣家に当る松下の理之助の事を皮肉ってゐた。
 ひとりの妹もこの冬産後の病気で死んだ。
 志津は足手まとひの四人の子供と共に取り残された。

 夕方になって久衛が学校から帰って来た。
 泣かされて来たのか顔が涙でグジャグジャに汚れてゐる。「なにしとったの! 今頃まで……」志津は畑にゐて一寸嶮しい顔をして見せた。
 久衛は肩から鞄を外しかけたがぐづぐづした。
「御飯食べてもいい?」志津が黙って頷くのを見ると久衛は元気好く勝手へ入って行った。
「さっさと食べて来て草を削るんだに……」
 志津は外から怒鳴った。
          五
からだは大分よくなりました。まだ時々背中が痛みますが大したことはありません。
今は夏肥がはじまって毎日畠へ出てゐます。
野襦袢が破れてしまったから、かはりのを送って下さい。股引も破れてしまひました。
米は盆まへに一斗だけもらって持って行きます。もうそれ以上ここから出してもらふことはむづかしいやうです。
伯母さまたちの腹を思ふと私も辛くあります。家では蚕はどうしますか。
  おだいじにして下さい
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