うな顔もして見せぬ志津に厭きはじめた。役場や吉野屋で過す時が多くなって行った。隣村から時々出張して来て吉野屋で店を開く呉服屋の佐々木は折々云った。
「森田の若旦那位果報な人はめったない。女にゃ好かれるし金はいくらでも持っとるし……」
 そして煽てて茶屋女の物なぞを頻りに買はせることがうまかった。続いて次の男の子が生れた。今度は善次郎と付けた。安田善次郎の善次郎である。
 繭の値が十円以上もしてゐて世間が好景気の真最中だった。森田部落でも田圃が惜気もなく潰されて桑畑に代った。吉野屋には茶屋女が二人も三人もぞろりとした風をしてゐた。
 善次郎は生れつきがひよわくて、一年許り育った丈で死んで了った。利国は間もなく義妹の春に手をつけて妊娠させた。
 その時はさすがのお安も顛倒した。ぢきに始末をつけることはつけたが、春はいつ迄も蒼い顔をしてゐた。
「春まはどこがおわるいの?」
 志津と幼友達の峰のかのゑはわざわざ探りを入れて志津の顔色を読んで見た。志津は性来の寂しい目をしてゐた。
「お志津まも黙っとる人だが馬鹿ぢゃねえぞ!」そんな風に云ふ者もあった。
 利国は町の方へ行ったきり帰らぬ日が多くなっ
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