たのであった。それはこの森田部落許りでなく、他の部落も同様で部落部落に一軒づつ大屋が在って、耕地の者は山林田畑と等しく大屋の所有財産で有り、人間の売買さへも行はれてゐたのである。
 自分等の祖先達の事を思ふ度、勝太は激しい屈辱を感じないではゐられなかった。
 その思ひにこそ身を粉にして働き続けて来たのではなかったか……。
 留吉はふとにやにやして
「あれで森田のお志津さも独りで遣って行けるらか?」と云った。その意味がみんなに解った。
「そりゃ遣って行くとも! 亭主やなになくたって……。女はそこへ行くと子供さへありゃ強いものだに!」
 まっゑがハキハキした口調で云った。
「どうだか! 女寡婦に花が咲くって昔から云っとるでハハハハ……」
 新蔵は笑って云った。
「こないだ、おふじさが馬鹿に洒落た風をして帰って来たぞ。馬鹿に若々した顔しとった……」
「おふじさは製糸で取るで工面がいいな!」
「製糸でいくら取れず! 口稼ぎがやっとこだ。又いい金主がついたんずら!」
 留吉は女房の顔を見乍ら云った。
「だが由公は脆く死にゃがったな……。森田の利国さの好い相手だったが……。ありゃ酒がもとだな……。
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