分、喜八郎さがえらい大病したってなむ!。肋膜かどっかで死にさうだったって!」
「うむ、弱り目に祟り目さ。だが森田も変りや変ったもんだな!」
勝太は何か動かされたやうな云ひ方をした。
「死んだお袋がよう云ったもんだ、稲|扱《こはし》休みに南瓜《かぶちゃ》の飯を煮とったら、森田のお安様が年貢取りに来て、火端へ上ってお出で、南瓜煮えたけ! さう云って一つ突つき乍ら、おめえ米なんちふものはな、有りゃ有って、始終水車小屋へ通はんならん……。搗け過ぎりゃせんか、盗られりゃせんかって苦労の絶えたことはない、みんなおんなしこんだわな……ってさうお云ひて……俺らだまって聞いて居ったが悲しかったでいまにわすれんよってなあ!」
勝太はさう話してゐる中に現に自分が云はれたやうな口惜しさの湧くのを覚えた。
森田の元の邸には台所が二つ在って耕地の者は下の台所迄しか行けなかった。勝太のお袋達の時代には、正月と盆には耕地中の者が家族全部引連れて土下座の形でお招ばれに行った。それは単なる小作人と地主の関係ではなく、農奴として厳格な主従の関係を結ばれてゐたので、耕地の者は大屋へ絶えず出入して召使ひの役目を果たしてゐ
前へ
次へ
全58ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
金田 千鶴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング