々云った。
「そいでも色気はあるだで?」新蔵が笑った。
「色気やなにやァあらずかよ! 耄碌しちまって、そんなものは爪の垢ほども有りゃせん!」
ハハハハハ……と、勝太は笑ったが皺の深い手でツルリと撫ぜた。
新蔵は義一の肩をつついた。
「それよかお前、早くお嬶《か》っさま貰へよ!」
「貰へたって、俺ァまり来て呉れ手がねえよ!」
「さう云ふなよ、隣家に丁度いいのが有るぢゃねえか。君子さを貰へよ?」
「君子さがどうして来て呉れず! 俺とは身分がちがふもん!」
「なんで?」相手が案外真面目に出たので新蔵も真顔になったが、
「藤屋あたりが威張るとこぁ薩張りねえぢゃないか、元が有ったってなんにも無しになりゃ俺らと同等ぢゃねえか!」
熱心になって云った。
「なあ! 森田様だ大屋様だって威張りくさったって潰れりゃ、小屋になっちまったぢゃねえか!」
「ふんとに森田も小屋になっちまったな!」
勝太は頷いた。
「岡島もあんなざまになるし大沢もつぶれたし大屋衆はみんな引張り合っとるで、ひとり倒れりゃ総倒れだ!」
「お志津まもふんとに気の毒なことになったなむ!」女房のまつゑがさう初めて口を出した。
「春時
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