勝太は沁んみりした調子で云った。
「ふんとだなあ!」宇平はさう合槌を打った。又生活のことに話が落ちて行く。――
 勝太は義一の年頃の事を思って見た。
「俺ァの時分には、朝飯前に六把の朝草はきっと刈ったんだでなあ――。それで夜業にゃ草鞋なら二足、草履なら三足とちゃんと決っとったもんだ!」
「……うん、そりゃあ昔の事思ふと今の者はお大名暮しだ。昔の事云ふと若者は機嫌が悪いで俺ァ黙っとるが……」
 宇平は呟くやうに云った。
「だが今日日ぢゃ草鞋作って穿《は》く代りに靴足袋買って穿かんならんやうに世の中が出来とるでなあ! なんでもその通りだ!」
 冬の稼ぎの石灰俵編みで、女手で夜業迄編んでやっと十四五枚のもの、それが二十五枚で一梱だが壱円札を握るには六梱編まねばならぬのだ。その血の出る思ひの壱円札をひょっと盗まれて了った時は悲し過ぎてぼんやりしたと、お袋が折々話した事を勝太は思ひ出してゐた。もう一度さういふ乏しい時世が返って来たのだ。――
「俺らもどうかへえ、馬鹿働きが出来んやうになったよ。不精《ずくなし》になっちまって……骨仕事がどうも厭《や》ァになった!」
 勝太はそれをしんから感じて沁
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