うな人をみると、要吉は、うんとまけてやりたい気がしました。どうせ、売れ残ればすててしまうのだもの、買いたくっても買いたくっても買えないような人たちには、どしどしたくさんやったらよさそうなものだと思いました。しかし、そんなことをしようものなら、主人《しゅじん》やおかみさんに、しかられるだけならまだしも、こっぴどい目にあわされるにきまっています。
 いつか、きたないなりをして、髪《かみ》をもじゃもじゃにしたそれはそれは小さな女の子が、よごれた風呂敷《ふろしき》づつみをぶらさげて、店の前にたっていたことがありました。それは、朝鮮《ちょうせん》あめを売って歩く子だったのです。女の子は、いかにもほしそうに、店の品ものをながめていました。
 要吉は、かわいそうになったものですから、いきなり、きずもののバナナをひとつかみつかんで、女の子にもたせました。と、奥《おく》からでてきたおかみさんが、ふいに要吉をどなりつけました。
「なにしてるんだい。」
「え、あの、ローズものを少しやったんです。」
「よけいなことおしでないよ。」おかみさんは、いきなり、うしろから要吉のほっぺたをぴしゃんとなぐりつけました。「
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