のおやしきばかりでした。
 勝手口《かってぐち》へは、どこの家でも、たいがい女中《じょちゅう》さんがでてくるのでした。
「それではね、いちごを二|箱《はこ》と、それからなにかめずらしいものがあったら、いつものくらいずつ、届《とど》けてくださいな。」
 そういったおおような注文《ちゅうもん》をする家が多かったのです。要吉は、それをひとつひとつ小さな手帳《てちょう》にかきつけました。
 昼《ひる》からになって配達《はいたつ》がすむと、今度《こんど》は店番《みせばん》です。つぎからつぎと、いろんなお客がやってきます。
「なるべく上等《じょうとう》なやつをいろいろまぜて、これだけかごにつめてくれ。ていさいよくのしをつけて。」
 そういって、新しい札《さつ》をぽんとなげだす人もあります。かと思うと、一山いくらのところをあれこれと見まわってから、ごそごそと帯《おび》の間《あいだ》から財布《さいふ》がわりの封筒《ふうとう》をとりだす、みすぼらしいおばあさんもあります。
「きんかん、これだけおくれ。」
 そういって、いくらかの銅貨《どうか》を店さきになげだす子どももありました。
 そういうお金のなさそ
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