やってよけりゃあ、わたしがやるよ。……そんなことをした日にゃあ、店の品《しな》もんが安っぽくなってしょうがないじゃあないか。」
 要吉は、そんなことを思いだすと、みすみすすてるもんだとは思いながらも、貧乏《びんぼう》なおばあさんや子どもに対《たい》しても、みかんひとつまけてやることができませんでした。
 要吉は、なんということなく、毎日毎日の自分の仕事がつまらなくってたまらなくなるのでした。
 要吉は、また、ある日、おやしきへ御用聞きにいきました。すると、ちょうどお勝手口へでていた女中が、まっ黒くなったバナナをごみ箱へすてていました。
「おや、どうなすったんですか。こないだお届《とど》けしたのは新しかったはずですが。」
 要吉は、びっくりして聞きました。[#「ました。」は底本では「ました」]
「なあに、これは、もうせんにとっといたのよ。」と女中はいいました。「到来《とうらい》ものやなんかが多《おお》くって、奥《おく》でめし上がらなかったもんで、しまっといてくさらしちゃったのさ。」
 女中は平気《へいき》な顔でいいました。しかし要吉はなんともいえないくやしい気がしました。
「もったいない
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