のおやしきばかりでした。
勝手口《かってぐち》へは、どこの家でも、たいがい女中《じょちゅう》さんがでてくるのでした。
「それではね、いちごを二|箱《はこ》と、それからなにかめずらしいものがあったら、いつものくらいずつ、届《とど》けてくださいな。」
そういったおおような注文《ちゅうもん》をする家が多かったのです。要吉は、それをひとつひとつ小さな手帳《てちょう》にかきつけました。
昼《ひる》からになって配達《はいたつ》がすむと、今度《こんど》は店番《みせばん》です。つぎからつぎと、いろんなお客がやってきます。
「なるべく上等《じょうとう》なやつをいろいろまぜて、これだけかごにつめてくれ。ていさいよくのしをつけて。」
そういって、新しい札《さつ》をぽんとなげだす人もあります。かと思うと、一山いくらのところをあれこれと見まわってから、ごそごそと帯《おび》の間《あいだ》から財布《さいふ》がわりの封筒《ふうとう》をとりだす、みすぼらしいおばあさんもあります。
「きんかん、これだけおくれ。」
そういって、いくらかの銅貨《どうか》を店さきになげだす子どももありました。
そういうお金のなさそうな人をみると、要吉は、うんとまけてやりたい気がしました。どうせ、売れ残ればすててしまうのだもの、買いたくっても買いたくっても買えないような人たちには、どしどしたくさんやったらよさそうなものだと思いました。しかし、そんなことをしようものなら、主人《しゅじん》やおかみさんに、しかられるだけならまだしも、こっぴどい目にあわされるにきまっています。
いつか、きたないなりをして、髪《かみ》をもじゃもじゃにしたそれはそれは小さな女の子が、よごれた風呂敷《ふろしき》づつみをぶらさげて、店の前にたっていたことがありました。それは、朝鮮《ちょうせん》あめを売って歩く子だったのです。女の子は、いかにもほしそうに、店の品ものをながめていました。
要吉は、かわいそうになったものですから、いきなり、きずもののバナナをひとつかみつかんで、女の子にもたせました。と、奥《おく》からでてきたおかみさんが、ふいに要吉をどなりつけました。
「なにしてるんだい。」
「え、あの、ローズものを少しやったんです。」
「よけいなことおしでないよ。」おかみさんは、いきなり、うしろから要吉のほっぺたをぴしゃんとなぐりつけました。「
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