やってよけりゃあ、わたしがやるよ。……そんなことをした日にゃあ、店の品《しな》もんが安っぽくなってしょうがないじゃあないか。」
要吉は、そんなことを思いだすと、みすみすすてるもんだとは思いながらも、貧乏《びんぼう》なおばあさんや子どもに対《たい》しても、みかんひとつまけてやることができませんでした。
要吉は、なんということなく、毎日毎日の自分の仕事がつまらなくってたまらなくなるのでした。
要吉は、また、ある日、おやしきへ御用聞きにいきました。すると、ちょうどお勝手口へでていた女中が、まっ黒くなったバナナをごみ箱へすてていました。
「おや、どうなすったんですか。こないだお届《とど》けしたのは新しかったはずですが。」
要吉は、びっくりして聞きました。[#「ました。」は底本では「ました」]
「なあに、これは、もうせんにとっといたのよ。」と女中はいいました。「到来《とうらい》ものやなんかが多《おお》くって、奥《おく》でめし上がらなかったもんで、しまっといてくさらしちゃったのさ。」
女中は平気《へいき》な顔でいいました。しかし要吉はなんともいえないくやしい気がしました。
「もったいない話ですね。そんなにならないうちに、だれかめし上がる方《かた》はないんですか。」
「ああ、お許《ゆる》しがでないとあたしたちもいただけやしないからね。それに、」と、女中は妙《みょう》な顔をして笑いながらいいました。「そんなに心配《しんぱい》しなくったっていいわよ。こっちでかってにくさらしたんだから、またいくらでもとってあげるわよ。お金さえ払《はら》やぁ、おまえさんの商売に損《そん》はないじゃあないの。」
「それはそうですけれど……」
要吉は、なんとなくむかむかするといっしょに悲《かな》しい気持になりました。店でくさらせるばかりでなく、こうして、おやしきの台所《だいどころ》へきても、まだ、たべる人もなくくさらせる。大ぜいの人びとの手をかけて、やっとのことでここまで運《はこ》ばれてきたとおとい品物《しなもの》がだれにもたべてもらえずにくさっていく。ただ、ごみ箱へすてられるためにばかり運ばれてくるとして、それでいいものだろうか。しかし、一方《いっぽう》には、くさりかけた一山いくらのものでさえも、十分《じゅうぶん》にはたべられない人びとが大ぜいいるのに。
「ああ、今夜《こんや》もまた、あのやぶ
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