毎日こうもたくさんくさっていくのはどうしたことだろう。それでいて、毎日おかみさんが売り上げの中から、まとまったお金を銀行《ぎんこう》へあずけにいくところをみると、お店は損《そん》をしているはずはない。それではこれだけのくさったくだものの代《だい》[#ルビの「だい」は底本では「たい」]はだれが払《はら》ってくれるのだろうか。
それから先《さき》は要吉にはどう考えてもわかりませんでした。
一山いくらのお皿《さら》の上には、まっ黒《くろ》くなったバナナだの、青かびのはえかけたみかんだの、黒あざのできたりんごだのがのっていました。
「こんなにならないうちに、なぜもっと安くして売ってしまわないんだろうなあ……安くさえすれば、もっとどしどし買《か》い手《て》があるだろうに……。」
要吉の考えとしては、それがせいいっぱいでした。
夜になると、要吉《ようきち》には、もっともっといやな仕事《しごと》がありました。
要吉は、毎晩《まいばん》、売れ残ってくさったくだものを、大きなかごにいれて、鉄道線路《てつどうせんろ》のむこうにあるやぶの中へすてにいかなければなりませんでした。ごみ箱がすぐいっぱいになるのをいやがるおかみさんは、そのやぶを見つけると、夜のうちに、こっそりと、そこへすてにいけといいつけたのです。
要吉は、うんざりしてしまいました。それで、ある時、要吉は思いきって、おかみさんにいってみました。
「こんなにならないうちに、なんとかして売ってしまうわけにはいかないもんでしょうか。安くでもして……。」
そうすると、おかみさんは、要吉をにらみつけていいました。
「生意気《なまいき》おいいでないよ。なんにもわかりもしないくせに。そうそう安売りした日にゃあ商売になりゃあしないよ。」
「でも……」要吉は、もじもじしながらいいました。
「すてっちまうくらいなら、ただでやった方がまだましですね。」
要吉は、それをいったおかげで、晩《ばん》の食事《しょくじ》には、なんにももらうことができませんでした。要吉は、お湯《ゆ》にもいかずに、空《す》き腹《ばら》をかかえて、こちこちのふとんの中にもぐりこまねばなりませんでした。
要吉は、その晩《ばん》、ひさしぶりにいなかの家のことを夢《ゆめ》に見ました。ある山国にいる要吉の家のまわりには、少しばかりの水蜜桃《すいみつとう》の畑《はたけ》が
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