要吉にとってはなによりもいやな、よりわけ[#「よりわけ」に傍点]をしなければならなかったからです。店の品物《しなもの》の中から、いたみかけたのや、くさりがひどくって、とても売りものにならないようなものを、よりわけて、それぞれ箱とかごとへべつべつにいれるのです。
枝《えだ》からもぎとられると、はるばると、汽車《きしゃ》や汽船《きせん》でゆられてきたくだものは、毎日毎日《まいにちまいにち》、つぎからつぎへといたみくさっていくのでした。要吉は、なめらかなりんごのはだに、あざのようにできた、ぶよぶよのきずにひょいとさわったり、美しい金色のネイブルに青かびがべっとりとついたりしたのを見るたび、まるで自分《じぶん》のはだが、くさっていくようないたみを感ぜずにはいられませんでした。
よりわけ[#「よりわけ」に傍点]がすむと、今度《こんど》は、一山《ひとやま》売りのもりわけです。いたみはじめたくだものの箱の中から、一山十|銭《せん》だの二十銭だのというぐあいに、西洋皿《せいようざら》へもりわけるのです。そのあんばいが、それはむずかしいのでした。
「そのくらいなのは、まだだいじょうぶだよ。」
少し、きずが大きすぎるからと思って、はねのけると、要吉《ようきち》は、すぐ主人《しゅじん》にしかられました。それではこのくらいならいいだろう、ひとつおまけにいれといてやれと、お皿《さら》にのせると、
「そりゃあ、あんまりひどいよ。よせよせ。」
と頭ごなしにどなりつけられます。
「おまけなんです。」
要吉がいいますと、主人は、
「ばか、よけいなことをするない、数《かず》はちゃんときまってるんだぞ。」と、けわしい目をしてにらみつけます。
要吉は、まったく、どうしていいのかわからなくなってしまいました。ですから仕事がちっともはかどりません。そうすると主人は、「いなかっぺ[#「いなかっぺ」に傍点]はぐずでしょうがねえなあ。」ときめつけます。
要吉は、そういわれると、ただ、もじもじと赤くなるばかりでした。
二
でも、このごろはだいぶ仕事《しごと》のこつ[#「こつ」に傍点]がわかってきました。要吉は、せっせと手を動かしながら、いろんなことを考えるようになりました。
せっかく、方々《ほうぼう》の国から送られてくるこれらのおいしい熟《じゅく》したくだものが、店にかざられたまま、毎日
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