を満足せしむる能はざるが故に国民と為すなきの文学なりと言はんか、謂《い》ふところ国民[#「国民」に傍点]は普通の新聞的読者の一団を指せるの語か、言ひ換ふれば、一種の実感もしくは卑俗なる好尚を以て文学に対する国民の意なるか[#「一種の実感もしくは卑俗なる好尚を以て文学に対する国民の意なるか」に傍点]、然らざれば国民としての意識を満足せしむる能はずの語得て解すべきにあらずや。思ふに詩歌に性情の満足をいふの意は唯だ作中に現れたる詩的正義《ポエチカルジヤスチス》に対する満足に関してのみ言ひ得らるべき事にはあらざるか、詩的正義だにあらば、必ずしも ideal hero を主人公とするの要なきにはあらざるか。吾人は国民性の美処をのみ描けといふ論拠に対して疑ひなきを得ざるなり。
 更に惑ふ、謂ふところ国民性とは何ぞや[#「国民性とは何ぞや」に傍点]と。言ひ換ふれば、我が国民に普遍[#「普遍」に傍点]なる特質(而して此《か》かる特質は要求するまでもなく作家が日本人なる限り、其の描写の方面を異にせるに拘《かゝは》らず、之れに触れざる作家なかるべき所以《ゆゑん》は普遍[#「普遍」に傍点]といふ語にも著くま
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