はざる也。
 或はまた国民性を言ふものの意は所謂勧懲主義、教訓主義の再興にありとも解せられざるにあらず[#「所謂」から「あらず」まで傍点]、則ち功利的見地に立ちて今の文学を律せんとするものとも解せられざるべきか。功利と文学との関係[#「功利と文学との関係」に傍点]は正当には如何に解すべきかは此に論ぜずとするも、単なる勧懲主義、単なる教訓主義は以て文学の真意義を蔽《おほ》ひ得ベしとするか。もし蔽ひ得べしとせば其の哲学的根拠[#「哲学的根拠」に傍点]は如何、吾人は之れを叩《たゝ》かざるを得ざる也。
 然らば、今の文壇に国民性を描くの要を唱ふるものの真意義[#「真意義」に傍点]は果して那辺《なへん》にか之れを求むべき。もし之れに是認せらるべき点ありとせば果して何の点ぞ。
 第一[#「第一」に傍点]、今の作家が自家の小主観に埋頭して一歩を此の境外に転ずる能はざるが如き観あるに対して国民性を描けと言ふか、真意は則ち作家に向つて客観的なれ[#「客観的なれ」に傍点]といふにあり、主観を拡大せよ[#「主観を拡大せよ」に傍点]といふにあり。此の意を持して国民性を説く、(此の点につきては漫《みだり》に作家
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