》はく、所謂国民性の描写を言ふものの真意は今の写実的小説に慊らざる所[#「写実的小説に慊らざる所」に傍点]あるが為なりと。以為《おも》へらく、写実小説は文学独立論を意味し、文学独立論は国民的性情の蔑視《べつし》を意味す、これ今の小説の国民に悦ばれざる所以《ゆゑん》なりと。さもあれ吾人は何故に写実小説が其の必然性として国民性の蔑視を意味するかを解する能はず。写実小説|豈特《あにひと》り国民性の埒外《らちぐわい》に逸するものならんや。もし之れを解して、今の写実小説に今一層国民性の美所[#「美所」に傍点]を描けとの意となさんか、(今の写実小説が果して国民性の醜所をのみ描けるやは姑《しばら》く問はざるも)則ち今一層理想的作風[#「理想的作風」に傍点]を取れとの意となさんか、此の要求の当否は兎《と》も角《かく》も、所謂理想的なるもののみ何故に国民性を描くと称せられ、其の醜処弱処を描けるもののみ何故に非国民的と称せらるゝかの理由明ならざるにあらずや。吾人は今の写実小説を以て国民性を描かざるものと思惟《しゐ》する能はず、(かく言ふは無意義なり)随うて此の理由によりて今の写実小説を排する所以を解する能
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