\とその廓の裏にある墓原へ行った。
 広い高台の上に、琉球式の、石を畳んで白い漆喰を塗った大きな石窖《いしむろ》のやうな墓が、彼方此方に点在して居た。雨上りの空気の透き徹った広い墓原には人影もなく寂しかった。
 彼は当途もなく、その墓原を歩いて居た。
 所が、彼が、とある破風造りの開墓《あきはか》の前を横切らうとした時、その中で何か動いて居る物の影が彼の眼を掠めた。彼が中をよく覗いて見ると、それは一人の男であった。彼は突如《いきなり》、中へ飛び込んで行って男を引き擦り出して来た。その瞬間に、今までの蕩児らしい気分が跡方も無く消え去って、すっかり巡査としての職業的人間が彼を支配して居た。
「旦那さい。何《ぬー》ん、悪事《やなくと》お、為《さ》びらん。此処《くまん》かい、隠《かく》くゐていど、居《を》やびいたる。」
 彼が無理無体に男の身体を験《しら》べて見ると、兵児帯に一円五十銭の金銭をくるんで持って居た。彼は、的切《てつきり》り[#「的切《てつきり》り」はママ]窃盗犯だと推定した。男に住所や氏名を聞いても決して云はなかった。たゞ、
「悪事《やなくと》お、為《さ》びらん、旦那《だんな》さ
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