たが、仄暗いその火影に女の顔は蒼褪めて見えた。女は戸が強くガタン/\と鳴り出すと、怯《おび》えたやうに、
「如何《ちやあ》ん、無《ね》えんが、やあたい。」
と云って彼に寄り添《そ》うた。ヒューッと風がけたたましく唸るかと思ふと、屋根瓦が飛んで、石垣に強く打突《ぶつつ》かって砕ける音がした。
暴風雨は三日三晩続いた。彼は中の一日を欠勤して三晩、其処に居続けた。烈しい風雨の音の中に対《むか》ひ合って話し合ってる中に、二人は今迄よりは一層強い愛着を感じた。二人はもう一日でも離れては居られない気持がした。彼は、何とかして二人が同棲する方法はないものかと相談を持ち出したが、二十三円の俸給の外に何の収入もない彼には結局如何にもならないと云ふ事が解ったばかりであった。彼は金銭が欲しいと思った。一途に金銭が欲しいと思った。
その時、彼には女の為めに罪を犯す男の気持が、よく解るやうに思はれた。自分だって若し今の場合、或る機会さへ与へられたら――さう思ふと彼は自分自身が恐ろしくなった。
四日目に風雨が止んだので、彼は午頃女の楼を出て行ったが、自分の家へ帰る気もしなかったので、行くともなしに、ブラ/
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