子があったが、それが却って百歳に強い愛着を感じさせた。
その歳は長い旱魃が続いた為めに、一般に景気が悪かった。随って此の廓でも、どの楼でも客が途絶え勝ちであった。カマルー小の所に通って来る客も二、三人しかなかったが、その客もだん/\足が遠くなって行った。その女を訪ねて行くと、百歳は何時でも、「仲前《なかめえ》」で彼の来るのを待ち兼ねて居る彼女を見出した。彼は、女がさう云ふ態度を見せるに随って、自分の愛着がだん/\濃かになって行くのを感じながら、それを抑制しょうとする気も起らなかった。
百歳は次の月の俸給日の晩には、女の楼へ行くと、思ひ切って十円札二枚をカマルー小の手に渡した。女はそれを見ると
「こんなに沢山貰っては、貴方がお困りでせう。一枚だけでいいわ。」
と、さう云って、後の一枚を押し返すやうにした。百歳は、
「貰っとけよ。もっとやる筈だが、また、今度にするさ。」
と云って、彼はその札を女の手に押し付けた。
翌日、家へ帰ると、彼は母に、今月の俸給は、非常に困って居る同僚があったので、それに貸してやった。が、来月は屹度返して呉れるだらうと云った。さう云ふ時、彼は顔が熱って、自分の
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