たようだと、思いきり足をのばして寝た。
三月二十四日。目を覚すと曇っているという声がする。小十が天候を見に出たが、危いという。がっかりしながら雪の上にはいだした。槍沢は曇った空の下に静まりかえっている。早い雲の往来を見でこれは駄目だと思った。無理をしてはいけないと第一に考えた。案内の※[#「木+累」、第3水準1−86−7]をはいて、槍沢を登っていった。※[#「木+累」、第3水準1−86−7]の歯はザクリザクリと雪に音をたてて食いこんだ。なんだか自分が蟻のように小さいように思いながら、急いで登った。一ヵ所熊の足跡が谷を横ぎっていた。槍がちょっと見えた。なるほど雪がない。天気さえ好ければ、一日かければ槍は楽に登れそうだ。虚栄心でくる連中でなく、心から槍の眺めを拝しにくる人なら、きっと荘厳な景色が見られる。僕らはまたくるとしようと口惜しがりながら、顔だけは平気を装って、すたすたと大股に引返した。遠くに小屋の頭がちょっと雪の上に見えた。小屋に帰ると皆待っていてくれた。飯をすまして午前九時に出発した。スキーをはいてたちまち小屋を後に滑った。谷を降りながらヤーホーと声をかけると上の方からヤーホー
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